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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)333号 判決

控訴人 原審検事 鈴木茂

被告人 西川勝馬 弁護人 久保田源一

検察官 中村哲夫関与

主文

原判決を破棄する。

本件を長崎簡易裁判所に差し戻す。

理由

検事の控訴の趣意は別紙の通りである。

本件公訴は刑法第二百三十五条の罪と選択刑として罰金刑の定めのある昭和二十二年政令第百六十五号の罪を内容とするものであるから裁判所法第三十三条第一項第二号により簡易裁判所である原裁判所も地方裁判所と重複的に第一審の裁判権を有すること極めて明白である。しかし同条第一項は簡易裁判所は刑法第二百三十五条の罪若くはその未遂罪に係る事件又はこれ等の罪と他の罪につき同法第五十四条第一項の規定によりこれ等の罪の刑を以て処断すべき事件に付いてのみ刑期三年以下の懲役刑を科することを得べく、然らざる限り禁錮以上の刑を科し得ない旨規定し又同条第三項は以上の制限を超える刑を科するを相当と認めるときは宜しく訴訟法の規定するところに従つて事件を地方裁判所に移すべき旨を命じているのであるから原裁判所は本件公訴に係る刑法第二百三十五条の罪と政令第百六十五号の罪との間に刑法第五十四条第一項の規定により前者の罪の刑を以て所断すべきものと認められる場合か然らざれば後者の罪につき罰金刑を選択して所断するを相 と認めららるる場合でない限り本件(或は事件を分離して後者の罪についてのみ)を管轄地方裁判所に移送すべきであるのに拘らず原裁判所は右両者の罪の間には併合罪の関係(刑法第四十五条前段)ありとしながら右政令の罪の所定刑中敢て懲役刑を選択し併合罪の規定に基き重い刑法第二百三十五条の懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人に懲役刑を科したものであるから原審の判決は明に裁判所法の前示規定に違反し、しかも右違反は判決に影響を及ぼすものであること極めて明白である故刑事訴訟法第三百九十七条第四百条に則つて主文の通り判決する。

(裁判長判事 島村広治 判事 後藤師郎 判事 青木亮忠)

控訴の趣意

原判決は被告人が昭和二十四年四月七日午後十二時二十分頃諫早市永昌町四面橋際に於て公に認めれたる場合に非ずして米国製米占領軍用シヤツ一枚を所持して居た事実を認定し他の窃盗事実と併合罪の関係ありとして右の所謂政令第一六五号違反の事実に就き懲役刑を選択し懲役一年六月の言渡しをしたのであるが懲役刑を選択するときは簡易裁判所の事物管轄に属せず従つて原審裁判所は右不法所持の事実については罰金刑を選択すべきである。

以上の理由で原審判決は法令の適用に誤りがありその誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであり破棄を免れないものと思料する。

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